無意識に症状を作り出す
今回は【疾病利得】をご紹介します。
これは、“しっぺいりとく”といいます。
疾病利得とは、
ある症状・病気(=疾病)によって
ちょっとラッキーなことを手に入れている(=利得)
という意味の言葉で、
臨床心理の現場においては、たまに登場します。
お気づきの通り、“たまに”です。
疾病利得と断言するにはなかなか根拠が揃わないため、
出現頻度はあまり高くないのです。
でもここで紹介しようと考えたのは、
誰しも「気持ちはちょっと分かる〜・・・」と感じられる
多かれ少なかれ皆が抱いている心理的な動きのように思うからです。
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たとえば・・・
「明日の発表会、緊張するなあ、憂鬱だなあ・・・」と思っている時に
同時に「熱でも出て、明日お休みする理由ができたらなあ・・・」と思う自分もいる、
なんて経験はありませんか?
発熱や腹痛など自分自身の身体的なしんどさはあるけれども、
同時に「憂鬱なことから逃れられた」というラッキーなことも起きているのです。
しかも、「大丈夫?」「残念だったね」と周囲から心配や同情をもらえる、
ラッキーなおまけがついてくる場合もあります。
疾病利得には苦痛感があることは事実のため、
苦痛感がないのにそう振る舞う「仮病」や「詐病」とは異なります。
だからこそ、本人は「身体の病気」と捉えることになり、
最初から疾病利得という心の働きに目を向けることはまずありません。
先に挙げた発表会前夜のような経験は誰しもなんとなく分かる感覚かと思いますが、
これは、単発的なことです。
チラッと考えてしまったけど結局熱が出ることもなく発表会に行った、
という経験の方が多いのではないでしょうか。
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チラッと考える程度であれば、「よく頑張ったね〜」という話で済みますが、
問題となってくるのは、
ある症状・病気(=疾病)によって
ちょっとラッキーなことを手に入れている(=利得)
という状態が “無意識” に “長期化” することです。
例えば、
「学校に行きたくても熱が出ているから行けないよね」
「勉強をしたくても目が見えないから仕方ないよね」など、
しなければならない事柄と、
それをやりたくない自分、または、その物事に対して能力が劣っている自分を
直視できずどうにかして回避する手段として身体的な症状を用いる時、
この状態から抜け出すことはそう簡単ではありません。
不登校や引きこもりで社会生活を回避する、
試合や試験など挑戦することを回避する、などが定着してしまいます。
実際に発熱していたり、視力低下が起こっていたり、
腫れていたり、痛みがあったり、身体症状が嘘ではないから、
「やりたいけど、できない」という本人の主張に対して
周囲もどう対応して良いものか困惑することがほとんどです。
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そんな難解な疾病利得から脱していくには、
まずは身体的な疾患の有無をきちんと調べる必要があります。
場合によっては「視力低下の原因は腫瘍だった!」など
重大な病気が分かることもあります。
思い込みは禁物です。
いろいろ調べたけれど身体的な病気はなさそうだとなれば、
疾病利得の可能性を考えていくわけです。
疾病利得の状態から脱するためには、
「行きたくない」「やりたくない」「出来そうにない」
など、「むり!」「やだ!」「怖い!」と素直な気持ちを言える必要があります。
カウンセリングの場では、
「本当はすごく向いてないと思う」「こんなの私のやりたいことじゃない」
「学校に行こうと思ったら、今日も失敗するんじゃないかと不安なんだ」
「不合格になるのが怖くて、もう受験そのものから逃げたいんだ」
「プレッシャーが大きすぎて、怪我してプレーできない方がちょっと楽なの」
といった “ずーっとずーっと言えなかった本音” を言葉にできるように
安心してもらうことがとっても大切です。
身体症状を使って出していたSOSを、自分自身の言葉で表現できるようにする
ということです。
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疾病利得って、少し難しい話ですが、
誰しも何となく経験したことのある感覚かと思います。
原因不明の身体の不調に悩んでらっしゃる方は、
どうか安心して一度ご相談にいらしてください。
「あなたは疾病利得にハマってます!」と断言することはほぼ出来ず、
「疾病利得かも?本音を押し殺してませんか?」という働きかけで
楽になっていくお手伝いができればと願っています。
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