カウンセリングについて
「カウンセリング」という言葉は、
もともとキリスト教の「Counsel of Perfection
(完徳の勧め)」がその始まりといえます。
つまり「神のような完全な存在となりなさい」
という、いわば実行不可能な助言を指す言葉で
した。長きに渡り、人の心の悩みを聴くのは、
神職の専門分野だったわけです。
教えを通して人を導くところから始まった
「カウンセリング」は、心理学の発展とともに
少しずつ形を変えていきます。
アメリカの臨床心理学者Carl Rogers 1902-1987)
は、それまでの精神科医がおこなう助言や忠告に
よって「導く」スタンスから、来談する患者本人
にカウンセリングの主導権を渡すという全く新し
い治療法を打ち出しました。
これは、治療者が指示やアドバイスをして悩みを
解決していくのではなく、「答えは悩みを抱える
本人が持っているもの」という現代のカウンセリ
ングの土台となる患者の心を優先、尊重した
「来談者中心療法」と呼ばれる考え方です。
「答えは、悩みを抱えている本人が持っているも
の」。
このことから、カウンセリングの場面では、
まず相談に訪れた人の話をしっかりと聴く、
「傾聴」が基本となります。
エステやマッサージのように、セラピストやカウン
セラーが施す施術をただ受けていれば良くなる、と
いうものとは違って、本人の主体的に取り組む姿勢
が基本である、ということです。
しかし、ここで大切なのは、セラピストはただ単に
悩みや問題について聴いているだけではありません。
相談者の心が何を求めているのかをしっかりと見極
め、心の声に耳を傾けているのです。
そこから浮き上がってきた問題へ、必要であれば適
切な心理療法を用いながら解決へと向かっていきます。
私たちは、日常生活の中でいくつかの無意識の領域を
持っています。この無意識に追いやられた思い、気持
ちが暴れ出した時、とても苦しく生きづらい状況が生
み出されてしまいます。私たち心の専門家は、追いや
られ、深い霧の中で抜け道を探しているような思いに
ついて、話を聴きながら少しずつ読み解いていくのです。
自分の心の奥底にある本当の思いや気持ちが発掘され
た時、そしてそれを受け容れて共存できるようになっ
た時、心はよりリラックスし、穏やかな時間を過ごす
ことができます。
そのためには、まず心に積もったことを吐き出し、整
理し、そして気づきを得た時にはそれを受け止めてく
れる相手が必要です。これが「対話」であり、カウン
セリングの意味合いなのです。
西洋では、歯医者や美容室に行くことと同じくらいの
意識で、心のカウンセリングを受けることが日常生活
に溶け込んでいる国が多く存在します。
これは、ストレスケアを始めとする、現実生活を支え
ている心のメンテナンスに対しての意識が高いことを
示すものですが、日本人はこの意識においてとても鈍
感であるといわれています。反対にいえば、我慢強く
、弱音を吐けない仏教国の文化が根強いともいえるで
しょう。
しかしここ札幌でさえも新型コロナウイルスの影響な
どで、今まで隠れていた問題が表面化して、日常生活
で受けるストレスは日に日に強まり、それらを発散す
る人間関係はどんどんと希薄になっていることも事実
です。
「病院に通う」、「カウンセリングを受ける」ことの
ハードルはまだまだ高い日本ですが、ぜひご自身の人
生をより豊かに過ごすためにも、心の専門家のカウン
セリングを利用してみてはいかがでしょうか。
カウンセリングの元々の語源に遡ると、
「Counsel」という言葉は、
「Co=共に」「Sel=取る、選択していく」
という意味からきています。
心の問題に向き合うことは、一人では難しいもの
です。
心のスペシャリストである私たちと「共に」、人生を
「選択していく」ことは、いま心の中に積もってしま
ったたくさんの余計なものを取り払っていく良いきっ
かけになるかもしれません。
いま、コロナの渦で混沌とした現実の中ですが、少し
立ち止まり、心の声に一緒に耳を傾けてみませんか。
参考文献
- R. Rogers 2005 クライアント中心療法(ロジャース主要著作集)保坂亨訳, 岩崎学術出版社
寺澤芳雄 1997 英語語源辞典(The Kenkyusha Dictionary of English Etymology), 研究社
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