新型コロナと戦うために~心の専門家からみた「恐怖」の攻略法~
新型コロナウイルスの感染が初めて確認されてから4か月が経とうとしています。当初は、武漢が閉鎖されたというニュースが流れても、どこか遠い場所で起きていることのような心持ちでいた方も多いのではないでしょうか?あれから瞬く間に感染は広がり、気づけば私たちの生活も大きく変わりました。ことさら緊急事態宣言が出されて以降、国内は異様な雰囲気に包まれています。
「『恐怖』は、ウイルスより早く感染する」――。そう謳い2011年に公開されたのは、「コンテイジョン」という、とある映画。ウイルスの感染拡大を描いたストーリーが、現在のコロナ禍をなぞっていると話題になっています。
映画ではややオーバーに描かれていますが、わたしたちが未知の脅威に対して抱く恐怖や不安は、もっともな感情です。ウイルスでも、生き物でも、食べ物でも、害のありそうなものを「こわい」と思うことで自分から遠ざけることができます。現にわたしたちの脳は、色がグロテスクな生き物や、慣れない匂いのする食べ物を本能的に避けるよう作られています。つまり、不安や恐怖は、正しく使えば、私たちを守ってくれるものなのです。
一方で、ネガティブな感情は人から人へ“うつりやすい”ことが言われています。新型コロナのようなウイルスと先に挙げた危険そうな生き物や食べ物とが決定的に違うのは、目に見えないところです。この「目に見えない」というのは、とても厄介なことです。なぜなら、見えないものに関心を向け続けるのはとても難しいからです。
デマを発端にしたトイレットペーパーの買い占め、メディアによる過度な政府叩き、感染者への差別的発言。これらの元にある不安や恐怖、怒り、焦燥感といった感情は、本来新型コロナウイルスに向けられるものです。しかし、目に見えない、しかも意思をもたないウイルスに、敵意や攻撃性を向け続けておくのは難しい。見えないウイルスに対して、直接できることはないからです。そこで、目に見える「情報」や「人」に関心を向ける。そうすることで、ネガティブな感情を吐き出す対象ができる。物の購買であれ、他者への批判であれ、主体的にできる行動も生まれる。目に見える行動から、ネガティブな感情が社会に伝播していく――。こうした今の日本社会の構図は、まさに「『恐怖』は、ウイルスより早く感染する」状況なのではないかと思うのです。
では、ネガティブな感情に支配されず、「不安」や「恐怖」と上手く付き合っていくためにはどうしたらいいのでしょう?
まずは、何より正しい知識、情報を得るということです。先に挙げた買い占めや過剰な批判のような、多くの心理的反応や行動は、知識の欠如やデマ、誤報によって生じます。ネットの情報はもちろん、テレビのニュースであっても、報じられた情報が閣議決定された事柄なのか、検討中・検証中の事案なのか、あるいは単なる個人の意見なのか注目することが大切です。
また、情報元(ソース)も大切です。信頼できる家族から送られてきたメールであっても、情報元は自分で確かめ、情報の信頼度を確認しましょう。特に、現在の社会情勢において、コロナに関連する重要事項(症状や問い合わせ先、給付金関連の事案など)は、必ずオフィシャルな情報源を確認することを強くお勧めします。オフィシャルな情報源とは、WHOや国(厚生労働省や経済産業省のホームページ)、お住まいの市町村のホームページなどです。有事の際は特に、高齢者や、ネットリテラシーに乏しい中高生などを中心として情報格差が生まれやすいと言われます。家族で正しい情報を共有するよう気をつけたいですね。
最後に、国連の機関間常設委員会では、感染を防ぐ環境づくりとして、「コミュニティの弱点やもろさよりも、コミュニティが有するストレングス(強み)や高い適応能力」に目を向けることの大切さを述べています。この場合のコミュニティとは、小さな単位では家族、大きな単位では国、地球と言えるでしょう。過酷な環境下で日々わたしたちの命を守ってくれている医師や看護師、病院スタッフはもちろん、政治家から自営業の方、休校中の子どもたちまで、一人一人が今できる場所でできることを一生懸命行っているはずです。至らないところを探して、仲間同士で足を引っ張り合うのではなく、今は日本の国民が一丸となることが、コロナに打ち勝つうえで大切なことではないでしょうか。強い拘束力のない「要請」であっても、自主的に外出を控え、家庭内での楽しみを見出せているところは、わたしたちの強みのひとつだと感じます。
今後も、銀のすずカウンセリングPremiumでは、コロナ禍において役立つ情報を発信していきます。臨床心理学的な視点から見た、ストレスマネジメントの方法や、コロナがもたらす心の不調(DV、離婚、うつ)と解決方法などにも触れていきますので、引き続きチェックしてみてください。
大変な状況ではありますが、みなさまが健康で変わりない日々を過ごせるよう願っています。
関連ページ:トラウマ 恐怖症 PTSD
参考資料:『新型コロナウイルス流行時のこころのケアversion1.5』(緊急時のメンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)に関する機関間常設委員会(IASC)リファレンスグループ, 2020年3月)、『新・心理学の基礎知識』(中村義明・繁桝算男・箱田裕司編,2005)、
『コンテイジョン』(Warner Bros. Entertainment Inc.,2011 )
『人から人へ、最も伝染しやすい感情はどれか?専門家に聞いてみた (https://www.gizmodo.jp/2017/03/which-emotions-are-the-most-contagious.html)』(GIZMODE, 2017年3月12日)